背中



 造一の手が顔に伸びたかと思うと、いきなり頬を挟み、そして──コズロフの下唇を甘く噛んだのだ。
「……!」
 コズロフは反射的に、造一をなぎ払おうとした。が、一瞬早く、造一の両手が、コズロフの両腕を捕えていた。圧倒的な力の差になすすべもなく、コズロフは仰向けに押し倒された。
 造一は大きな身体に跨り、甘噛みを続けている。その位置は、コズロフの下唇から上唇、鼻先へと移動していく。歯を立てずに唇で食み、時折、舌でくすぐる、その感触をコズロフは呆然と受け止めていた。





 造一の唇が目元に触れたとき、コズロフはようやく、自分を取り戻した。
「おい! 子供は父親に、こんなことはしないぞ!」
 コズロフの言葉に、造一は僅かに不思議そうな顔をした。
「『お父さん』は愛おしいものだ。母さんはそう言っていた」
 コズロフは混乱する頭で、造一に説明を求めた。そして必死に、造一の言葉を理解しようとした。


←BIOMEGA top■  ←back■  □next→