輪舞曲 -Rondo-. 2



 肌の温度より幾分か高い熱を感じた瞬間、速水は自分の鼓動がどくり、と強く打ったのがわかった。
 安積を抱きしめながらベッドへもつれ込むように倒れ、覆いかぶさる。
 さらに深く重ねようと、強く唇を押しあてた。
「………ん……っ」
 速水の噛みつくようなくちづけに、安積は驚いたような声をもらした。
 速水はその声すらも逃がさないかのように、やや薄めのくちびるを厚い舌で舐め、舌先で強引に唇を割った。安積の舌を強引に絡めとり、前歯できつく噛む。安積は苦しげに喉の奥でちいさく呻いたが、速水はそれでも厚い唇で安積の唇をふさぎ、口腔を蹂躙した。
「も……や……っ」
 顔をそむけ、なんとか速水の口づけから逃れると、安積は速水の胸を押しやった。
 押しやられて、はじめて速水は安積がうっすらと涙ぐんでいるのに気づいた。
「──悪い。とばしすぎたな」
 体ごと想いを受け入れてくれたとわかった途端、秘めていた欲望が押えきれなくなったようだ。夢中で貪ってしまった。
「……窒息、しそうに、なったろうが……っ」
 何度も肩で息をしながら、安積はうるんだ目で、速水を睨んだ。
「肺活量きたえなきゃな」
 軽口でこたえながらも、拒否ではないことに速水は安堵した。なだめるように赤に染まった目元へくちづけを落とす。
「悪かったな。もうやめる」
 もちろん欲しいという衝動がおさまったわけではなかった。今の口づけだけで、速水の下肢は熱を帯び硬くなっていた。しかしこのまま行為を続ければ、安積を傷つけてしまうかもしれない。それは嫌だった。
 ──まるで十代のガキと一緒だな。
 そんな幼い衝動をぶつけられる安積は、それこそたまったものではないだろう。速水の想いを受け入れたとはいえ、安積は同姓に押し倒されるなど、想像したこともなかったはずだからだ。
「ここで一緒に寝るか」
 今の荒々しさが嘘のように、速水は安積のみだれた髪を優しくなでながら言った。
 その手をつかむと、安積はすこしかすれた声で言った。
「誰も、止めろとは言っていない」
 すこしは手加減しろと、言ってるだけだ。そう続けると、安積はくるしげに吐息をもらした。
「安積?」
「…………っ」
 安積はぎこちない動きで自分の下肢を隠そうとしたが、速水の手のほうが速かった。
 速水は安積の立ち上りかけているそれを、大きな手のひらでそっと触れた。
 スラックスの上からでも、熱を帯びているのがはっきりとわかる。
「……勃ってる」
「馬鹿……っ」
 罵倒しようとした安積だが、速水のほっとしたような、ひどく安堵したような笑顔に、それ以上なにも言えなくなってしまった。
「なぁ。脱がせてもいいか?」
「──いちいち聞くな」
 やわらかく安積の耳たぶを食みながら、速水は笑いを含んだ声でささやいた。
「また泣かれちゃ困るからな」
 安積も同じように感じていることを知り、速水は逆に落ち着いた気分になっていた。
 自分だけが欲情しているようで、余裕がなく感じていたのだ。
 一度体を離し、速水は器用な手つきで安積の服を剥いでいった。下着まで脱がせると安積のたかぶりを確かめるように触れる。
「あっ……」
 それだけで安積の体は震えたが、つぎに速水のたかぶりを直に擦りつけられ、その熱におもわず声をだしてしまった。
 速水は二人の先走りを手に受けると、安積のと自分自身のものを大きな手のひらでまゆっくりと扱きはじめた。
「ん……っ、駄目だ、速水……っ」
 安積が怯えた表情と声でいった。ひさびさの刺激と自分のものではない手のひら、互いのものが擦りあわされる感触に、嫌になるほど早く感じてしまう。
 狂おしそうな表情で喘ぐ安積の声が、苦しそうな感じからしだいに感じたそれに変わってきて、快感を訴える。
「っ……は……、……ぁ」
 息を呑むような気配とともに、安積の腰がビクリと跳ねた。速水の手のひらに熱を放つ。ほとんど同時に速水も熱を放っていた。

                       * * *

「……つぎは……」
 速水の腕の中、安積が半ばまどろみながらつぶやいた。
「なんだ」
「つぎは、おまえも脱げ」
「ずいぶんと情熱的だな」
「俺ひとり、恥ずかしいおもいをしてたまるか」
 終わってから自分だけ脱いでいたことに気づき、安積は相当腹がたったらしい。
 速水は笑いながら安積の首筋にそっと口づけをおとした。
「恥ずかしいのは、脱がされたことだけか?」
「……この馬鹿」
 軽口でごまかしたが、当たり前のように次の情事を口にする安積に、速水はひどく嬉しさを感じていた。
「安積」
「これ以上言ったら、俺は向こうで寝るぞ」
「好きだ」
「……知っている」
 速水はその返事にゆっくりとほほえんだ。いまはそれだけで充分だった。


                                                END


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