「……ほら。おわったぞ」
 声をかけながら安積は本当の犬へするように、速水の頭をぽんっ、と軽く撫でてやった。速水の顔を見ようとはせず、くるりときびすをかえす。安積は早足で2階へつづく外階段へ向かった。
 その背中へ、速水はひどく機嫌のよい調子で声をかけた。
「生でいいか?」
「なんだと?」
「ハンカチの礼だ。今夜は***でビールの飲み納めといこう」
 前をいく安積の、風を受けはためくシャツのうごきを目で追いながら、速水は続けていった。
「夏ももうじき終わるからな」
「……そうだな」
 安積は階段を上がりながら、その声にすこしだけ間をおいて返した。
 いつもより素直な返事に、速水はかるく足をとめた。しかしそれ以上はなしかけることはせず、ゆったりとした足取りで安積のあとにつづいた。

                                                         END





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